今泉大輔さんのコラムがスタート 第1回『水インフラPPP事業の基本を押さえる』

[ 2011/04/15 ]


※当コラムはインフラ投資ジャーナリストで、メディアプラネッツ代表今泉大輔様のご協力のもと、掲載しています。

zen water

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水関連のビジネスではよく、水処理膜やポンプ等の機材・素材関連が1兆円、上下水道や海水淡水化のプラント建設市場が10兆円、上水道や下水道のサービス市場が100兆円ということが言われます。これはもちろん世界で、ということです。

日本企業は機材・素材関連市場やプラント建設市場ではかなりの存在感がありますが、100兆円という大きな規模を持つ水関連サービス市場では、一部の商社を例外とすれば、取り組みがまだまだというところがあります。これは言うまでもなく、わが国では上下水道のサービスは自治体が手がけるものであり、その分野において民間企業が育たなかったということが背景にあります。

とは言え、この市場の将来性は依然として有望であり、国交省経産省パッケージ型インフラ輸出振興政策の1つの柱として、海外水サービス市場への日本企業のアプローチを支援し始めたことは記憶に新しいところです。

これから何回かにわたって、海外における水サービス事業の事例をご紹介したいと考えています。
それに先だって、海外の水サービス事業の根底にあるいわゆる「PPP」(Public Private Partnership)、よく「官民連携」と訳されますが、その基本部分をご説明したいと思います。というのも、PPPが理解できていないと、それぞれの事例のポイント部分が理解できない可能性があるからです。

■コンセッション=特別な事業権の認可

PPPは、論じる人によって、あるいは国によっても、それが指し示しているものの意味が若干異なります。本稿では、その違いを説明することは省略させていただいて、海外の水サービス事業のベースになっているのは、「PPPのうち『コンセッション』と呼ばれる官民連携フォーマット」であるとして、先に進みたいと思います。

コンセッションには「免許」「特許」「利権」「特権」という意味があります。端的には国や自治体から民間企業に与えられる「特別な事業権の認可」だと考えればよいでしょう。以降、特に断りのない限りは、PPPと記せば、それは「コンセッション」のことであるとお考えください。

PPPは、国や自治体による調達の新しい手法として英国オーストラリアで発達してきました。一般的な調達では、国・自治体が設計(Design)、資金手当(Finance)、建設(Build)、サービス運営(Operation)において自らが主体となって詳細を決定し、それを受託できる事業者を公開入札などで求めます。これに対してPPPでは、設計、資金手当、建設、サービス運営のほとんど、あるいはすべてを民間に委ねます。

これによって国・自治体の側は財政負担が軽くなるとともに、サービス運営にかかる人員等の負荷も軽減されるメリットがあります。また、事業運営の効率化では民間企業に分がありますから、かけたお金に対して得られる価値(Value for Moneyと呼びます)はPPPの方がよくなる可能性があります。いくつかのメリットがあるとは言え、多くのケースでは、国・自治体は民間の資金力を当てにしているようです。

■インフラPPPは安定した事業収益が見込める

資金力を当てにされる民間企業の側からPPPを見てみましょう。インフラは一般的に、競合他社が参入しにくい独占的な営業環境を持っています。また、中長期にわたって利用者からの収入が見込めます。そのため、初期投資で数千億円が必要になる案件であったとしても、収支シミュレーションによって借入金の返済、必要経費の支払などを行ってなお利益が見込めるメドが付けば、経営はゴーの判断を下せます。市場で競合他社と向き合い、利益を削って価格競争を行っている通常の事業環境に比べれば、インフラビジネスは非常に手堅いのです。それは「利権」と言ってもいいでしょう。そもそも「コンセッション」には「利権」という意味もあります。

この時、収益の源泉は利用者が支払う利用料であることに留意する必要があります(一部の事例では国・自治体が大口サービス購入者となり、利用料を一括で支払うこともあります)。世の中にインフラと呼ばれているものはたくさんありますが、インフラPPPビジネスの対象になるのは、利用者が利用料を支払う用意のあるものだけです。従って、一般道路、橋梁、無料で利用するのが当たり前である公共施設などは、インフラPPPの対象にはなりません。

一般的なインフラPPP案件では、国・自治体の側が設計も民間に任せてくれます。最低限の条件は提示されますが、中身については自社のノウハウによって自由に設計できるため、将来にわたってコストが抑制できる構造を採用することができます。すなわち採算性を向上させる余地が民間に残されています。仮に、官が詳細設計を行い、建設、資金調達、サービス運営が民間に任せられるタイプのPPPがあるとすれば、応札する企業は多くないでしょう。利益向上のためにコントロールできるポイントがあまりないからです。

現実の事例では、カリフォルニア州が建設を計画している高速鉄道はインフラPPPとして進められています。応札する側は車両の設計・製造を含めて収益向上を様々なポイントで工夫できるため、応札のインセンティブが高くなっています。

総じて民間企業にとって、PPPは特権的な環境で安定した事業収益が見込める得難いチャンスと言うことができます。

■インフラPPPのファイナンス

インフラPPP事業のファイナンス面について見てみましょう。
PPPがよく行われているのは、有料道路、発電所、上水道、下水道、空港、港湾、高速鉄道の分野です。いずれも初期投資は数百億円から数千億円に上ります。こうした巨額のお金を自社の現金だけで支払える企業はまず存在しません。従って、何らかの形でファイナンスを行うことが不可欠になります。

一番多く見られるのが、インフラ事業を手がける企業複数がコンソーシアムを形成し、インフラの初期投資とその後の運営ができる財務力を持てる特別目的会社を設立して、その特別目的会社を1つの大きな「財布」としてファイナンスを行うパターンです。おおざっぱな例では、初期投資1,000億円が必要なインフラ事業があったとすれば、コンソーシアム企業が各社分担で200億円を特別目的会社に出資し、残りの800億円を銀行複数によるプロジェクトファイナンスによってまかないます。 各ステークホルダーの関係を簡単に図式化したものが以下です。

インフラPPP事業の模式図

インフラPPP事業の模式図

プロジェクトファイナンスは、そのプロジェクト(=インフラ事業)から上がるキャッシュフローのみを返済原資とし、担保もそのプロジェクトに関わる資産(インフラ設備と事業運営権)のみに限定する特徴があります。従って、インフラ事業の収入が低迷して返済が困難になるような事態があったとしても、コンソーシアム企業に返済を求めたり、それらの企業が持っている資産を担保として押さえるといったことはありません。

このことは、インフラ事業に関わる企業にとってリスクがある程度限定されているということになります。 融資を行う側から見れば、返済原資をガラス張りにする意味で、そのインフラ事業から上がる収益を関係ステークホルダーのお金の流れから隔絶させた方が好ましいです。その意味でも、インフラ事業のお金の流れのみが毎期の損益計算書と貸借対照表に現れる特別目的会社があった方がよいのです。融資する側は、特別目的会社の業績が万一低迷して返済が困難になったとしても、担保になっているインフラ設備と事業運営権を使って、ステップインと呼ばれる割り込みを行い、別な運営者をあてがって事業を再建することもできます。

■メーカーにとっては利益相反が起こる可能性も

インフラPPP事業は、ファイナンス面から見ると、色々な形の投資機会が存在している非常にユニークな事業分野であり、金融界からも注目されています。

そのインフラが特別目的会社によって運営されていることは、後から加わる投資家の側にとっても都合がよいということがあります。現在では、インフラ事業に投資するインフラファンドが世界各国で立ち上がっています。各々数百億円規模の資金を持ち、空港、有料道路、上下水道などのインフラ事業に投資を行っています。収益性が高いインフラ事業(高配当率のインフラ事業)があれば、その特別目的会社の株を購入する形で投資をします。これは、特別目的会社の設立に際して投資を行ったコンソーシアム企業などから見れば、出資金を現金化できる(エグジット)機会ということになります。
インフラファンドが想定しているインフラPPP事業からのリターンは年率10%台〜20%台と、かなり高くなっています。すなわち、インフラPPP事業はそれだけ高いリターンが見込めるものであるという、ある種の相場ができあがっていることになります。

一方で、例えば、水ビジネスに携わる企業が、水ビジネスを拡大するためにPPP事業に参画したとしても、ステークホルダーがたくさんいるがゆえに、事業収益を自らの思うように処理できないということがあります。特別目的会社が得る売上は、まず事業運営に必要な経費、続いて銀行団への返済となり、残ったものから自らへの配当を得るという順序になります。コンソーシアム複数社で立ち上げた場合には配当も出資比率に応じたものになります。収益を上げるには、初期投資を抑制し(毎期の減価償却費の圧縮)、オペレーションコストを節減するという至極当たり前のことをやらなければなりません。

また、自社で水関連製品を持っている場合であっても、その製品が真にコストパフォーマンスのよいものでない限り、他のステークホルダーからは非難される可能性もなきにしもあらずです。インフラPPPビジネスの図式では、特別目的会社の利益が上がることが最優先です。すべてのステークホルダーはそれがあるがために参加してきます。ここで価格性能比が他社製品に比べて明らかに劣る自社製品を無理に使わせようとする企業がいたとすると、他のステークホルダーとしてはおもしろくないということになります。メーカーがインフラPPP事業に参加する場合には、このような利益相反が起こることがあるので注意が必要です。

次回以降は、実際の水ビジネスの事例を見て行きたいと思います。以下を予定しています。
・インド・マハラシュトラ州ラトゥールの上水道プロジェクト
・ベトナム・ホーチミンシティの上水道プロジェクト
・仏水メジャー・ヴェオリア社による韓国仁川の下水処理プロジェクト
・バーレーンのMuharraq下水処理プロジェクト

■■■プロフィール■■■

今泉大輔(いまいずみ だいすけ)

・インフラ投資ジャーナリスト blogs.itmedia.co.jp/serial/
「インフラ投資ジャーナル リサーチ&レポート」を運営

カードビジネス専門誌編集長を経てITジャーナリスト(著書複数)。日本総研などの銀行系シンクタンク、デロイトトーマツコンサルティングなどの外資系コンサルティングファームからリサーチを受託。米最大手ネットワーク機器会社に7年間あまりリサーチャーとして勤務、金融、電力、製造、流通小売などを担当。現在はインフラ輸出やインフラ投資などのインフラ事業を追う。

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