今泉大輔さんのコラム 第4回「ヴェオリアウォーターの韓国仁川市下水処理場事例」

[ 2011/07/12 ]


※当コラムはインフラ投資ジャーナリストで、メディアプラネッツ代表今泉大輔様のご協力のもと、掲載しています。
(参考:今泉大輔さんのコラム 第3回「大阪市水道局と関西水企業が取り組むホーチミン上水道事例からわかること」

Songdo Central Park in Incheon International City

Songdo Central Park in Incheon International City

Image by WSTAY.com

ヴェオリアウォーターは世界67カ国で水関連のオペレーションを行っている水分野のトップ企業です。上水道サービスの対象顧客は1億人。下水道サービスの対象は7,100万世帯に上ります。2010年の売上は121億3,000万ユーロ(約1兆3,800億円)。ヴェオリアエンバイロメントの一部門であり、同社は他にエネルギー、ごみ処理、輸送の事業を行っています。

ヴェオリアウォーターの売上は44%がフランス、29%がフランスを除く欧州となっていて、欧州全体で7割以上を占めます。アジアでも積極的に展開しており、売上の11%がもたらされています。1,400億円前後の規模がありますから、決して小さいとは言えません。比較対象として東京都水道局の平成19年度の売上を確認しておくと、3,804億円となっています。

アジアでは、今回取り上げる仁川以外に中国の上海、深セン、天津、常州、盧溝橋、邯郸、宝鶏、昆明、珠海、さらには香港、ウルムチでも上水ないし下水のオペレーションを行っています。

■2処理場の建設費は約20億円

ヴェオリアが韓国仁川市で手がけた事例について、様々な方法を駆使して調べてみたのですが、残念ながらあまりディテールが明らかになりませんでした。わかったことのみを記してみます。

仁川市は韓国で3番目の規模を持つ人口約270万人の都市です。ソウルに比較的近いことから、ソウルに通勤する住民もたくさんいます。東京における横浜市のような位置づけだと言われています。人口増大が続いていることと、新しいコンセプトで街作りが行われている新松島(ニューソンド)の開発計画があったことから、下水道処理の容量不足が問題になっていました。1990年代末の話です。

韓国では当時、自治体が民間企業に水事業を委託できる法制度が整ったばかりでした。仁川の下水道処理プロジェクトは韓国初の官民連携BTO(Build-Transfer-Operate)案件として競争入札にかけられました。案件の概要は次の通り。

・2001年から20年契約(完工および操業開始は2005年)

・下水道処理サービス提供人口25万6,000名

・10.3kmの下水道管を建設

・仁川市の萬寿と松島の2カ所に2つの下水処理場を建設(増設・改修だと思われる)。初期は前者の処理能力7万立方メートル/日、後者が3万立方メートル/日。これを最終的に2処理場合計で30万立方メートル/日に拡張。

・受注企業は設計、資金調達、建設、メンテナンス、オペレーションを受け持つ。

落札したのが、ヴェオリアが80%、サムスンエンジニアリングが20%を出資して設立された特別目的会社Samsung Veolia Incheon Wastewater(以下サムスンヴェオリア)。おそらくは韓国初の官民連携水案件ということで、選定では手堅さが優先し、ヴェオリアの実績が評価されたのではないかと思われます。

BTO(Build-Transfer-Operate)ということですから、資金調達はサムスンヴェオリアが行い、建設も同社が行って完工した後で、2つの下水処理場の所有権は仁川市に移転します。その後、サムスンヴェオリアは仁川市から2つの下水処理場の操業権を得て運営します。サムスンヴェオリアの収入は仁川市から支払われるサービス提供費です。いわゆる「サービス購入型」の案件ということになります。

約20億円に上る建設の初期費用負担をサムスンヴェオリアが負っていますが、おそらくは、その7〜8割程度の金額のプロジェクトファイナンスが組まれたものと思われます。 なお、両下水処理場で用いられている下水処理技術に関する記載がヴェオリアのウェブサイトにあります(英語)。

■自治体向けに加えて産業向けも収益基盤に

このように事例の全体像がわかってみると、下水処理場としてはさほど規模の大きくない案件だと言うことができます。ヴェオリアはこの案件の前後で、韓国の半導体工場などの工業用水処理を複数受注しており、それによってヴェオリアウォーター韓国としての収益基盤を固めています。仁川に続く自治体の案件は未だ出ていないようです。

現在、ヴェオリアウォーター韓国は14カ所でオペレーションを行っており、300名の従業員がいます。仁川の萬寿と松島を除くと、あとはすべて工場の用水処理です。このような営業展開は、日本の水関連企業が海外に進出した場合にも1つのモデルになるかも知れません。すなわち、自治体の案件と並行して産業向けの水処理を行うことで、現地での事業活動が独り立ちできる可能性が高まります。

 

■■■プロフィール■■■

今泉大輔(いまいずみ だいすけ)・インフラリサーチ/ジャーナリスト blogs.itmedia.co.jp/serial/

9月中旬に「インドネシア・インフラ案件視察」を実施予定、現在企画進行中。http://blogs.itmedia.co.jp/serial/2011/07/post-8553.html

カードビジネス専門誌編集長を経てリサーチャー/ジャーナリスト(著書複数)。日本総研などの銀行系シンクタンク、デロイトトーマツコンサルティングなどの外資系コンサルティングファームからリサーチを受託。米最大手ネットワーク機器会社に7年間あまりリサーチャーとして勤務、金融、電力、製造、流通小売などを担当。現在はインフラ輸出やインフラ投資などのインフラ動向を追う。

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