今泉大輔さんのコラム 第5回「競争入札が進行中のインドネシア・アンビュランの上水道プロジェクト」

[ 2011/08/11 ]


※当コラムはインフラ投資ジャーナリストで、メディアプラネッツ代表今泉大輔様のご協力のもと、掲載しています。
(参考:今泉大輔さんのコラム 第4回「ヴェオリアウォーターの韓国仁川市下水処理場事例」

Pura Tirta Empul

Image from Shenghung Lin

インドネシア政府は上水道、有料道路、鉄道などのインフラ分野で民間企業の資金調達力を活用するPPP(官民連携)のプロジェクトを多数走らせようとしています。今年前半に公開された案件リストには79件のPPPプロジェクトがリストアップされており、うち24件は上水道案件となっています。同政府はこれらの案件に外国企業の参入を期待しており、法制度や保証制度を整えた上で、国際競争入札案件として公開しつつあります。

今回は現在進行形で競争入札プロセスが進んでいるスラバヤ近郊アンビュラン(Umbulan)の自然泉を原水とする上水道PPP案件の全体像を述べ、インドネシアの水案件がどのように進むのかを確認してみたいと思います。

■オランダが作った水インフラ

インドネシアの上水道事情は首都ジャカルタやオランダ植民地時代に上水道が整備された一部の都市を例外とすれば、まだまだ近代的水準には達しておらず、人口の70%以上が細菌汚染の可能性がある水を利用しています。ジャカルタでは水を煮沸するために1世帯が1ヶ月に11米ドルを使っているという報告もあります。

上水道がカバーしていないエリアでは共同水栓から水を得るケースもありますが、水売り人から水を買って使うケースもあります。この価格がかなり高く、90年頃のジャカルタの数字ですが、1立方メートル当たり2.62米ドルの値が付いています。参考までに横浜市の標準世帯の水道料金1立方メートル129円と比較すると、1ドル100円換算で2倍の値段ということになります。

今回取り上げるケースの中心都市であるスラバヤ(Surabaya)は、古くから大きな港として栄えた街であり、18世紀半ばから日本軍の占領まではオランダが統治していました。近郊にアンビュランと呼ばれる自然泉があり、これを水源として1917年にオランダ企業がスラバヤ市内の水道サービスを始めています。しかし、その恩恵に与れるのはオランダ人に限られていました。

現在のスラバヤ市の水道サービスも当時のインフラを使っています。しかし、人口270万を支える量の供給はできず、多くの市民は井戸や水売りに頼っているようです。

アンビュラン自然泉は毎秒4,000リットル以上の湧出量があり、これを水源とする民営の水道事業が過去にも何度か企画されていました。1988年から2000年にかけて計3回、インドネシア系、英国系、オーストラリア系の企業により事業が立ち上がりかけましたが、地方政府ないし地方水道公社に水を売る価格設定で折り合わず、いずれも立ち消えになっています。

近年、インドネシア政府は、未整備のインフラに事業の枠組みを与えるため、法制度に加えて、受注した民間企業が恩恵を受けられるいくつかの資金面の支援制度を整備しています。それによりアンビュランの上水道プロジェクトも、最大で初期投資の半分までを中央政府と地方政府から助成してもらえるようになりました。受注する民間企業から見れば、非常に採算に乗りやすくなったと言うことができます。

 

■丸紅・日本工営コンソーシアムも入札資格を獲得

アンビュランから湧き出る水は塩素消毒をするだけで飲用に供することができるそうです。従って、これを都市部に導水し、既存の配水網に接続できればすぐに上水の供給量が増えます。案件の概要は次のようになっています。

・ 事業者が行うのは設備の設計、資金調達、建設と25年間の運用。

・ アンビュラン自然泉に毎秒4,000リットルの取水施設を設置し、延長92kmの導水管(内径1000mm〜1800mm)を建設し、5つの水道公社の配水網と接続する13の送水口まで導水する。

・ 導水管敷設用地のほとんどは道路地下で、工事の障害となる管路などは存在しない。

・ 水の引き取り手(販売相手)はスラバヤ市、パスルアン市、パスルアン県(Regency)、シドアルジョ県、グレシク県の水道公社。

・ 取引条件はいわゆるテイク・オア・ペイ。すなわち、各公社が水を引き取るか否かにかかわらず、導水可能量に対する定額料金(availability payment)を各水道公社が支払う。ただし、導水サービスが稼働しない期間における支払いはない。

・ 初期投資額は1.8億〜2億米ドル。うち、30%までをインドネシア政府が、20%までを東ジャワ州政府が助成。

競争入札では設計案の良し悪しに加えて、導水可能量に対する定額料金の多寡が競われることになります。

オーストラリア政府は、おそらくODAの一環としてだと思いますが、インドネシアの鉄道や水道などのインフラ整備を国際標準のPPP案件として切り出し、国際競争入札を陰で取り仕切る活動を行っています。アンビュランの水道事業についても、オーストラリアのインフラコンサルティング会社であるSMEC Internationalが取り仕切っています(オーストラリアによるインドネシア政府のインフラ事業支援の情報は次のサイトで得られます  )。

競争入札は次のようなプロセスで進みます。なおこれはセクターを問わず、国際的な標準形と呼べるものです。

– 案件を競争入札で進めることについて告知

– 案件概要を公開し、Expression Of Interestを募る(EOIは「案件入札に参画したいという意思」)

– 案件説明会

– EOI締切

– 入札資格事前審査(EOI提出書類により入札にふさわしいかどうかを判断)

– 入札資格付与事業者発表

– 入札資格付与事業者に対する詳細な案件情報提供

– 入札資格付与事業者側による”技術提案書”と”財務提案書”の作成(前者には設計情報など、後者には価格情報や資金調達計画などを盛り込む)

– 2つの提案書を提出して入札

– 提案書内容審査

– 提案内容に関する確認、場合によっては条件交渉

– 落札者発表

アンビュラン水道事業案件はEOI締切が昨年10月中旬にあり、12コンソーシアムが応募しました。今年6月末の入札資格付与事業者発表では、日本の丸紅・日本工営コンソーシアムを含む以下の4コンソーシアムが資格を得ています。

1. PT Medco and PT Bangun Cipta consortium (82.20ポイント)

2. Marubeni Corp, Nippon Koei, and PT Perkom Indah Murni consortium (80.17ポイント)

3. China Harbour Engineering Co. Ltd, Sound Global Ltd, and PT. Manggala Purnama Sakti (79.48ポイント)

4. PT. Amerta Bumi Capital, PT Bakrieland Development Tbk, and Beijing Enterprise Water Group Ltd (76.39ポイント)

 

末尾のポイントは入札資格審査の審査基準の各々に計100ポイントが割り当てられており、そのうち何ポイントを獲得したかを示すものです。ご参考までに以下の審査項目が設定されています。

審査基準

配点

資質(capacity)

インドネシア政府の各省および機関と協業して多岐にわたる複雑な問題に対処していけるか。また、関連する専門家・コンサルタントと協業できるか

25

PPPプロジェクトの経験

成功を収めた水分野のPPPプロジェクトの経験があるか

30

本案件を成功に導く入札準備および工程管理ができるか、EOI書類が用意できるか

30

本案件の資金調達を実現するための対投資家説明活動(ロードショー)を的確に実施できるか

15

合計

100

これは陰で取り仕切っているSMEC Internationalが設定した基準であり、要するに、彼らと一緒にやれるかということを見るものです。なお、提出書類の言語は英語で統一されています。

また、対投資家説明行動(ロードショー)に関する項目があるのは、各コンソーシアムが独自に行う資金調達活動に加えて、おそらくは、アジア各国の機関投資家などを対象にした、SMEC Internationalと共同で動くロードショーが想定されているのだと思います。うがった見方をすれば、最大2億ドルの事業費のうち、ある程度の割合をそれらの投資家から得ることができれば、インドネシア政府および東ジャワ州政府の助成金額は抑制することができます。そうしたシナリオが含まれているのではないかと思います。通例、インフラPPP案件ではこうしたロードショーを要求することはありません。


■競争入札の焦点はやはり価格設定か

アンビュランのケースは、施設内容が比較的シンプルであり、売り先も5つの水道公社に限られるので、事業モデルの構築に頭を悩ませる必要がない、言うなれば手がけやすい案件ではないかと思います。また、初期投資額の最大50%までを中央政府および地方政府が助成してくれるため、事業者側のファイナンス負担は軽減されます。投資回収もかなり容易になるでしょう。

競争入札で落札できるかどうかのポイントは、やはり、5つの水道公社に対する水の販売価格になると思われます。入札参加者である4つのコンソーシアムはそれぞれ同じ条件で戦うため、どのようにして安い価格を提示するかで智恵を絞ることになるでしょう。設計、調達、建設、25年間の操業をフィナンシャルモデルに組んで、もっとも妥当な価格を割り出すことになります。

water

Image by Mimi_K

■■■プロフィール■■■

今泉大輔(いまいずみ だいすけ)・インフラリサーチ/ジャーナリスト blogs.itmedia.co.jp/serial/

カードビジネス専門誌編集長を経てリサーチャー/ジャーナリスト(著書複数)。日本総研などの銀行系シンクタンク、デロイトトーマツコンサルティングなど の外資系コンサルティングファームからリサーチを受託。米最大手ネットワーク機器会社に7年間あまりリサーチャーとして勤務、金融、電力、製造、流通小売 などを担当。現在はインフラ輸出やインフラ投資などのインフラ動向を追う。

■■■お知らせ■■■

本コラムの筆者・今泉大輔氏がコーディネーターを務める視察「インドネシア・インフラ事業競争入札環境調査」が実施されます。期間は9月11日(日)〜16日(金)までの6日間。視察概要はこちら。http://www.collaborate.co.jp/index.php/tourlist/92-tour281.html

視察内容に関する補足説明はこちら


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