【コラム:国境なき医師団】『命の水』現場から見る世界の衛生事情‐下痢症で命を落とす、栄養失調の子どもたち‐

[ 2010/10/01 ]


大草原を横切る大河のように、国境を越えて世界の流れを見てみたい-そう考えたことはありませんか?
近年では、バックパックを背に各国を旅する学生や、途上国へ出張に出かける人など、多くの日本人が国際社会へと飛び出しています。

わたしたち国境なき医師団(MSF)は、世界64カ国で活動している民間の国際的なNGO団体です。天災や人災などで医療を受けることができない人びとのもとへと駆け付け、無償で人道援助を提供しています。2009年、MSF日本支部からは、計55人のスタッフが24の国と地域で活動を行いました。

MSFの活動地は医療から隔絶された途上国の僻地が多く、日本のように、水栓から清潔な水がほとばしる衛生環境に恵まれることは稀です。特にサハラ砂漠以南のアフリカの国々では、ちょっとお腹を壊し下痢を発症しただけで、多くの子どもたちが死の危機に直面してしまいます。これは一体、どうしてなのでしょうか?

このような場所には医療がないだけではなく、慢性的な栄養失調を患っている子どもたちが多くみられ、下痢の発症が命取りとなってしまうのです。栄養失調は、発育途中にある小さな子どもがかかりやすい病気です。世界では、日本の総人口を上回る1億9500万人の子どもたちが栄養失調に苦しみ、今も5秒に1人が5歳の誕生日を迎えることなく命を落としていると推計されています。

ところが、日本を含む先進国から供給されている援助食糧は、トウモロコシや大豆の粉を混ぜた栄養強化粉で、水と混ぜおかゆ状に調理する必要があります。清潔な水のない地域で、栄養失調から免疫力が弱った子どもたちに与えるには危険な食べ物です。それに植物性の「おかゆ」で一時的な空腹感をしのぐはできでも、栄養素の不足から発症する、栄養失調という病気自体がよくなることはないのです。成長過程にある子どもたちは大人の小型版ではなく、吸収しやすい良質の動物性たんぱく質や微量ミネラルなど、特別な栄養素の摂取が正常な発育には欠かせません。

MSFでは、RUTF(Ready to Use Therapeutic Food)を治療に取り入れ、栄養失調は予防も治療も可能であることを訴えています。RUTFは、個別包装されたパウチを開封して1回で食べきることができる、半固形状の治療食です。常温で長期保存でき、家庭での取り扱いも簡単です。分量の間違いや、調理用に清潔な水を入手する必要もありません。1袋500キロカロリーのRUTFは、粉ミルク、砂糖、植物性油脂を主原料とし、乳幼児の発育に必要な栄養素が含まれています。味は、衰弱して食欲のない患者も好んで食べることができる、甘いピーナッツバター風味です。

RUTFを治療に用いたニジェールでは治癒率が9割以上と多くの命を救うことができ、栄養失調の予防対策としても有効であることがわかりました。この栄養治療により、衰弱しきっていた栄養失調児たちは通常3~6週間で元気になり、笑顔を見せるようになります。西アフリカのブルキナファソに住む2歳のアブドゥルは、体重が4kgしかない重症患者でした。しかし、数週間の治療を経て順調に回復した息子を見たとき、母親は大喜びしてこう言いました。

「MSFが魔法をかけて治してくれました。もう村では子どもたちが死ななくなりました。」

現在、何十億ドルもの国際援助が「途上国への食糧援助・安全保障」や「緊急食糧援助」に向けられています。ところがこの援助額のうち、幼児の栄養失調対策に直接投じられたのはわずか2%未満であることが、MSFの分析で判明しています。
MSFは10月16日の「世界食糧デー」を前に、RUTFによる治療の促進にこれらの資金を使用し、救うことのできる命を見捨ててしまわないよう、国際社会に訴えています。



栄養失調の息子、アレクシをあやす母親のナターシャ。ブルキナファソ、2009年10月撮影



※写真をクリックすると、国境なき医師団(MSF)と米国の著名なⅦ(セブン)フォトエージェンシーの特設サイト、「Starved for Attention 栄養失調―1億9500万のストーリー―歴史を書き変える時」をご覧いただけます。


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