【コラム】国境なき医師団(MSF)の自然災害時の援助活動 -清潔な水で命を救う

[ 2010/11/01 ]


※当記事は非営利で国際的な医療や人道援助を行う民間団体「国境なき医師団」様よりご提供いただいています。

2010年にはハイチの大地震、中国での地震や土砂災害、パキスタンの洪水など、大規模な自然災害が各国で相次いで発生しました。地震や台風、洪水などの自然災害は人びとの生活を一瞬にして破壊し、多数の死傷者を生み出すばかりではなく、被災者の心に深い傷を残します。

国境なき医師団(MSF)は大規模な災害が発生した場合、通常48時間以内に緊急援助チームを派遣し、現地のニーズに応じて援助活動を開始します。今回は、7月末に過去最悪レベルとも言われる大規模な洪水が発生したパキスタンを例に、MSFの自然災害における援助活動を水・衛生活動を中心にご紹介します。


水の塩素レベルを確認するMSFの水・衛生専門スタッフ


◆災害発生直後から援助開始まで
自然災害発生の情報が入り次第、MSFは情報収集を行い、緊急チームがいち早く現地入りして被害状況や援助ニーズの調査を行います。援助の必要性が確認されると、海外派遣スタッフに緊急派遣の要請を行うと同時に、緊急援助物資を被災地に輸送するための手配を行います。援助活動を開始する前段階として、物資調達を担当するロジスティシャンは援助活動を行うために必要となる、治療用のテントやトイレの設置、安全な水の確保、通信手段や移動手段の確保などを行います。また、緊急派遣チームは現地当局や他団体と連絡を取りながら、援助が一部の地域に集中し遠隔地への援助が滞ることがないか、調整を取りながら援助を行います。

◆緊急医療・物資援助の実施
被災地における活動は多岐にわたります。医療面では、地震や洪水によって負傷した被災者の外科治療や、医療から取り残された人びとへの基礎医療などを行います。家を失った被災者が集まるキャンプなどの場所は人口過密になりやすいため、下痢やコレラ、皮膚感染症などの病気が広がる恐れがあります。MSFは清潔な水の提供や衛生状況を整えて病気を未然に防ぐと同時に、下痢症やコレラの治療センターを開設して患者の治療を行います。

これらの医療援助活動と平行して、MSFは家を失った被災者が住むための避難所の設置、テント、毛布、食料や調理器具などの配布を行います。災害のために道路などの交通網が遮断されてしまい、外部の援助から孤立してしまう地域もあります。MSFの移動診療チームは、車やヘリ、時には徒歩で、これらの地域に医療と援助物資を届けに行きます。同時に、調査活動を継続して行い、援助から取り残されている地域に医療と物資を届けます。

◆水・衛生環境の改善
誰もがそうであるように、災害で家を失った人びとも生存のために水を必要とします。しかし川や湖などが近くにあっても、特に洪水が発生した場合、水が汚染されている可能性があります。MSFは水の沈殿・濾過・塩素消毒などの処理を行い、人びとが安全な水を確保できるようにします。水源が近くにない場合には貯水タンクや給水トラックなどを用いて水を被災者のもとへ運びます。

清潔な水の確保にくわえて、排泄物の管理も必要です。非常事態が発生した直後はトイレが整備されておらず、排泄物はしばしばキャンプの周りに捨てられます。排泄物が原因となって赤痢やコレラなどの感染症が蔓延するため、衛生の維持が不可欠になります。MSFは居住地や水源から離れた地面に溝を掘り、囲いや手洗い所を備えた簡易トイレを設置し、病気の蔓延を未然に防ぎます。

◆パキスタン洪水:清潔な水で命を救う
2010年7月にパキスタンで発生した大規模な洪水により、多数の死傷者が発生しました。MSFは洪水発生直後から、医療や援助物資の提供、衛生状況の整備を行いました。洪水によって水源である井戸や給水設備の多くが汚染あるいは破壊されたため、被災地では清潔な水が大幅に不足していました。このため、MSFは水・衛生の専門チームを編成し、給水タンクや給水トラックを稼動させて、給水活動を行いました。

洪水の被害を受けたパキスタンのシンド州南部の町カイプール・ナサン・シャーは、10月現在でも国土の広大な部分が褐色の水で覆われています。MSFは近隣の町ジャムショロで、住民が水を汲みに来られる給水地点を設置しました。この町では、現在でも約4万3000人に上る洪水の被災者が避難所やテント、廃屋で暮らしています。これらの被災者は飲料や炊事、洗濯用などのため、毎日1人当たり少なくとも25リットルの安全な水を必要としています。


浄化された水の塩素レベルを調べるMSFの水・衛生専門スタッフと、ジャムショロのキャンプで暮らす子どもたち


MSFがこの地域で貯水タンクを設置したことで、被災者は安心して使用できる水をいつでも手に入れることが出来るようになり、水を媒介とする下痢やコレラなどの感染症にかかる可能性が大幅に減りました。ジャムショロで活動するMSFの水・衛生専門スタッフは、リャカット医療保健大学にある水処理施設で浄水活動を行っています。MSFは10台の給水トラックと4台の給水車で、安全な水を1日あたり30万リットル供給することを目標に給水活動を行っています。

MSFの水・衛生専門スタッフのモハメッド・イドリースは、リャカット医療保健大学の水処理施設から搬出される精製水を毎回の出荷分ごとに検査し、結果をこまめに記録しています。彼は最初に濁度(水中に浮遊する微粒子の量)を測定し、水の浄化に必要な塩素の量を決めるためにpH値をチェックします。また、20リットルのサンプルに対して4~6ミリリットルの塩素を加え、30分・1時間・3時間の間に溶解する様子を観察し、飲料水として適しているかを調べます。理想は、全く味がしない状態です。

モハメッドのアシスタントとして働くトウフィク・アーメッドは、給水トラックに適量の塩素を加える業務を担当しています。「いまでは私たちの仕事がもつ影響力を実感し、非常に責任を感じています。私たちが持っていく水が安心して飲めることは、彼らにとって非常に重要なことです。病気になる心配がないからです

キャンプで暮らす被災者のナジル・アーメッド・マンジュウーは次のように話します。
洪水は全てを破壊しました。来月、来年でさえ、何をすればよいのか分かりません。でも、いまのところ安全な水と住まいはあります。

同じキャンプでクラスグラブ・マッキは続ける。
そう、いい水です・・・。本当にありがたいことです


MSFの水・衛生専門スタッフの、モハメッド・イドリース(右)と、アシスタントのトウ フィク・アーメッド


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